まず、ここで歴史の意義について考えて見ましょう。

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ここに点があります。これが歴史のない私たちです。私たちがどこから来てどこへ向かっているのかまったく解りませんね。でも歴史があると私たちがどこから来たのかの軌跡がわかります。

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あるいはこうかもしれない。

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そうするとニュートンの慣性の法則ではありませんが、だいたい将来どういう風に進んでいくのか見当をつけることができますね。青い線はこう来たのならこう進むでしょうか。赤い線はこちらの方という具合ですね。

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で、もしこのままの方向が私たちにとって好ましいものでなかった場合、どうしたらいいでしょう? こちらは良くない方向なので、こちらのほうに方向転換できないものでしょうか?物理ならこの方向を変えるならこういう力を加えてみようかということになるでしょう。それが下の図です。

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これを歴史に応用すると、過去を学んで未来を予測し、それが好ましい方法に進んでいないなら、その方向を変えようとする試みをすることができます。そしてやってみたらうまくいったか。いかなかったならどうしてか? 力を加えすぎたとか角度が少しずれていたとか。このような作業をするとき歴史がもう一度役に立ってくれます。過去によく似た状況で昔の人たちがいろいろ工夫したわけですが、うまくいった場合があればそれをまねることができる。失敗していたら何がいけなかったのか推測し、別のやり方を試してみる。このように歴史は私たちの未来にとって大変重要なのです。

でも、物理学と私たちの歴史と未来はまったく別の分野で、そんな応用は無理な気もします。ところが、実際この方法を使った歴史家がいます。それが17世紀のイタリアの歴史哲学者ジャンバチスタ・ヴィーコです。

彼は7つの古代文明を分析して歴史には周期があると結論づけました。それがこれです。

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まず歴史は野蛮時代から始まります。これは弱肉強食のいわゆる自然状態の社会です。そこから文明が生まれてくるわけですが、まず最初に神の時代、即ち神格政治となり、それがやがて武力を基盤とした軍人支配である英雄の時代に移り、そこから平民の支配する社会に移り、その後文明は崩壊して野蛮時代に戻るとなります。

ここで、この周期を西洋史に当てはめてみたらどうなるでしょう? 第1講では実際西洋史がヴィーコの周期に当てはまるのかどうかを検証してみましょう。